ハロウィンに聴きたい、ちょっと怖いピアノ曲5選

10月31日はハロウィン。
街にはカボチャやおばけ、魔女などが並び、いつもとは少し違った雰囲気に包まれます。
そんな夜には、音楽もちょっと不気味なものを選んでみるのはいかがでしょうか。
クラシック音楽の世界にも、死者、怪物、恐ろしい物語、夜に現れる怪異、そして悪魔を描いた作品があります。
ただ怖いだけではありません。
不気味なのに美しかったり、恐ろしいのに思わず聴き入ってしまったり。
作曲家たちはピアノという楽器から、さまざまな「怖さ」を引き出してきました。
今回は、ハロウィンの夜に聴きたい、ちょっと怖いピアノ曲を5曲選びました。
最初はまだ、少し怪しいくらい。
でも、夜が深くなるにつれて……。
1. グリーグ《小人の行進(妖精トロルの行進)》Op.54-3
Edvard Grieg:March of the Dwarfs (Trolltog), Op.54 No.3
ハロウィンの夜、最初に現れるのは北欧のトロルたち。
グリーグの《抒情小曲集》第5集に収められた《小人の行進》です。
冒頭から聞こえてくるのは、何か小さなものたちが忙しく動き回っているような音楽。
軽快なのに、どこか怪しい。
楽しそうなのに、少し不気味。
まるで暗い森の中からトロルたちが次々と姿を現し、行進を始めたようです。
ところが途中では雰囲気が一変。
穏やかで美しい旋律が現れ、北欧の静かな森を思わせるような世界が広がります。
そして再び、あの怪しい行進が戻ってくる――。
今回の5曲の中では比較的親しみやすく、怖さもちょっとコミカル。
まだハロウィンの夜は始まったばかりです。
2. サン=サーンス=リスト《死の舞踏》S.555
Camille Saint-Saëns / Franz Liszt:Danse macabre, S.555
時計が真夜中を告げると、今度は死者たちの時間。
サン=サーンスの代表作《死の舞踏》を、リストがピアノ独奏用に編曲した作品です。
《死の舞踏》が描くのは、真夜中に「死」が現れ、墓場の骸骨たちを踊らせるという不気味な光景。
もともとは管弦楽作品ですが、超絶的なピアノ書法で知られるリストの編曲によって、ピアノ一台とは思えないほど華やかで劇的な作品になっています。
怪しげな響きから始まり、やがて音楽はどんどん激しさを増していく。
骸骨たちが次々と墓から起き上がり、狂ったように踊っている――そんな光景が目に浮かぶようです。
怖い。
でも、どこか楽しい。
そして何より、ものすごく華やか。
ハロウィンのクラシック音楽として、これほど分かりやすく盛り上がる作品もなかなかありません。
トロルたちの行進が終わったと思ったら、今度は墓場で死者たちの舞踏会。
どうやら今夜は、普通の夜ではなさそうです。
3. ラフマニノフ《音の絵 Op.39》第6番 イ短調
Sergei Rachmaninoff:Étude-tableau in A minor, Op.39 No.6
ここから、少し本気で怖くなってきます。
ラフマニノフの《音の絵》Op.39より、第6番 イ短調。
この作品についてラフマニノフは、**「赤ずきんと狼」**というイメージを示しています。
そして実際に聴いてみると、その言葉に納得するはず。
冒頭から不穏。
低い音域から何かが忍び寄ってくるような響きが現れ、やがて音楽は激しく動き始めます。
先ほどの《死の舞踏》には、どこか「怖いけれど楽しい」要素がありました。
しかし、この作品は違います。
これは「追われる怖さ」。
暗い森の中で、何かがこちらへ近づいてくる。
逃げても逃げても、背後から追いかけてくる。
そんな緊迫感が音楽全体を支配します。
ラフマニノフというと、美しくロマンティックな旋律を思い浮かべる人も多いかもしれません。
でも、こんな恐ろしい世界も描ける。
ハロウィンの夜に聴けば、いつものラフマニノフとは違った顔が見えてくるかもしれません。
4. ラヴェル《夜のガスパール》より「スカルボ」
Maurice Ravel:Gaspard de la nuit – Scarbo
逃げ切ったと思って部屋に戻り、ようやく一安心。
しかし――。
夜の部屋に、何かがいる。
ラヴェルの《夜のガスパール》を締めくくる「スカルボ」です。
《夜のガスパール》は、アロイジウス・ベルトランの詩に着想を得て作曲された3曲からなる作品。
その最後に登場するスカルボは、夜になると突然姿を現しては、部屋の中を動き回り、そして消えてしまう怪異的な存在です。
その様子を描く音楽も、とにかく予測不能。
遠くから何かが聞こえたと思えば、突然目の前に現れる。
猛烈な勢いで動き回ったかと思えば、一瞬で消える。
そして、また現れる。
聴いているこちらまで、スカルボに弄ばれているような感覚になります。
しかもこの作品は、ピアノ曲屈指の超難曲としても知られています。
恐ろしいのはスカルボなのか。
それとも、この楽譜を弾かなければならないピアニストなのか。
……どちらもかもしれません(笑)
華やかな恐怖だった《死の舞踏》。
追われる恐怖だったラフマニノフ。
そして「スカルボ」は、そこに何かいるかもしれないという恐怖。
ハロウィンの夜は、いよいよ深くなっていきます。
5. スクリャービン《悪魔的詩曲》Op.36
Alexander Scriabin:Poème satanique, Op.36
そして最後にたどり着くのは――悪魔の世界。
スクリャービンの《悪魔的詩曲》Op.36です。
タイトルからして、今回の企画にこれ以上ないほどぴったり。
ただし、この作品の怖さは、ここまで紹介してきた4曲とは少し違います。
骸骨が踊るわけでもありません。
狼に追われるわけでもありません。
怪異が部屋を駆け回るわけでもありません。
もっと妖しく、もっと誘惑的。
音楽には不穏な響きが漂いながらも、同時にどこか人を引きつけるような魅力があります。
「怖いから逃げたい」のではなく、「危険だと分かっているのに近づいてしまう」。
そんな悪魔的な世界です。
スクリャービンの音楽は、初期にはショパンの影響を感じさせるロマンティックな作品が多く見られますが、次第に独自の神秘的な世界へと踏み込んでいきます。
《悪魔的詩曲》は、その個性的な世界を感じられる作品のひとつ。
ハロウィンの夜の最後に聴くなら、大きな音で驚かせるような恐怖ではなく、聴き終えたあとにも何か妖しいものが残る作品で締めくくりたい。
トロルたちから始まった今夜の物語。
最後に待っていたのは、悪魔でした。
ピアノで楽しむ、ちょっと怖いハロウィン
今回紹介した5曲には、それぞれ違った「怖さ」があります。
グリーグ《小人の行進》の怪しくも愉快なトロルたち。
サン=サーンス=リスト《死の舞踏》の真夜中に踊る死者たち。
ラフマニノフ《音の絵》の何かに追われる恐怖。
ラヴェル「スカルボ」の夜に現れる怪異。
クリャービン《悪魔的詩曲》の妖しく人を引きつける悪魔性。
同じ「怖い音楽」でも、その描き方はまったく違います。
そして面白いのは、どの作品もただ恐ろしいだけではないこと。
美しかったり、ユーモラスだったり、華やかだったり、時には妖艶だったり。
「怖いのに、なぜかもう一度聴きたくなる」。
そんなところにも、クラシック音楽の面白さがあります。
今年のハロウィンは、映画や仮装、お菓子と一緒に、ちょっと怖いピアノ曲も楽しんでみてはいかがでしょうか。
部屋を少し暗くして、静かに再生ボタンを押してみる。
ただし――。
聴き終わったあと、部屋の隅に何か見えても責任は持てません。
Happy Halloween! 🎃