有名曲だけじゃない!ショパンの隠れた名曲3選

ショパンと聞いて、どんな曲を思い浮かべますか?
《幻想即興曲》、《英雄ポロネーズ》、《革命のエチュード》、《別れの曲》、そして数々のノクターンやワルツ――。
ショパンには、クラシック音楽に詳しくなくても一度は耳にしたことがあるような名曲が数多くあります。
しかし、その作品を少し深く探してみると、有名曲の陰に隠れた魅力的な作品にも出会えます。
「こんなショパンもあったんだ」と思わせる個性的な作品や、もっと知られていてもいいと思えるほど完成度の高い作品も少なくありません。
今回はそんなショパン作品の中から、有名曲だけでは分からないショパンの魅力を楽しめる3曲をご紹介します。
1. 即興曲 第3番 変ト長調 Op.51
Impromptu No.3 in G-flat major, Op.51
ショパンの「即興曲」と聞けば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは《幻想即興曲》ではないでしょうか。
しかし、ショパンには《幻想即興曲》とは別に3曲の即興曲があり、その最後を飾るのが《即興曲 第3番 変ト長調 Op.51》です。
冒頭から聞こえてくるのは、軽やかに流れていく細かな音の連なり。
その上に優雅な旋律が浮かび上がり、音楽はまるで即興的に生まれていくかのように自然に進んでいきます。
華やかでありながら、決して感情を強く押し出しすぎない。
そこには、若い頃のショパンとはまた違った洗練された美しさがあります。
中間部では雰囲気が変わり、より内面的で落ち着いた表情も現れます。
そして再び冒頭の流麗な世界へ。
一見すると軽やかな作品ですが、旋律と伴奏のバランス、繊細な音色、自然なルバートなど、ショパンらしい表現の難しさが随所に隠されています。
《幻想即興曲》の華麗さとはひと味違う、成熟したショパンの優雅さと繊細さを味わってほしい一曲です。
2. タランテラ 変イ長調 Op.43
Tarantella in A-flat major, Op.43
続いては、タイトルからして少し意外な作品。
ショパンの《タランテラ》です。
タランテラは、イタリア南部に由来する非常に速いテンポの舞曲。
ショパンといえばポロネーズやマズルカなど、祖国ポーランドと結びついた舞曲のイメージが強いため、「ショパンがタランテラを書いていたの?」と思う人もいるかもしれません。
曲が始まると、その印象はさらに変わります。
6/8拍子のリズムに乗って、音楽はほとんど立ち止まることなく猛烈な勢いで駆け抜けていきます。
次々と現れる軽快な音型。
目まぐるしく変化する響き。
そして最後まで失われない強烈な推進力。
ショパンらしい華麗なピアノ書法を持ちながら、《ノクターン》などの抒情的な作品とはまったく異なる表情を見せてくれます。
ただ速く弾くだけではなく、舞曲としてのリズムと軽やかさを保ちながら最後まで音楽を運ぶことが重要で、演奏する側にとってはなかなか手強い作品でもあります。
演奏時間は比較的コンパクト。
それでも、最初から最後まで強烈なエネルギーに満ちています。
「ショパンってこんな曲も書いていたんだ!」
そんな驚きとともに楽しんでほしい、隠れた快作です。
3. ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 Op.44
Polonaise No.5 in F-sharp minor, Op.44
最後に紹介するのは、《ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 Op.44》。
ショパンのポロネーズといえば、《英雄ポロネーズ》や《軍隊ポロネーズ》が圧倒的な知名度を誇ります。
しかし、その陰に隠れてしまいがちな第5番も、ぜひ一度じっくり聴いてほしい大作です。
冒頭から漂うのは、不穏な緊張感。
やがて力強いポロネーズのリズムが現れ、音楽は荒々しさを増しながら巨大なスケールへと発展していきます。
ここまでなら、重厚で劇的なポロネーズ。
ところが、この作品には大きな驚きがあります。
曲の中ほどで、それまでの緊張感から離れるようにマズルカ風の音楽が現れるのです。
同じポーランドを代表する舞曲でありながら、堂々としたポロネーズと、より素朴で親密なマズルカ。
性格の異なる二つの舞曲がひとつの作品の中に置かれることで、音楽に独特の奥行きが生まれています。
そして穏やかな時間が終わると、再び暗く激しい世界へ。
終盤では、それまで蓄積されてきたエネルギーが一気に噴き出すような迫力を見せます。
《英雄ポロネーズ》のような明快な華やかさとは違う。
暗さ、不安、激しさ、そしてどこか祖国への思いを感じさせる舞曲の響き。
ショパンのポロネーズが持つ、より深く劇的な一面に触れられる作品です。
有名曲の、その先にいるショパンへ
今回紹介した3曲は、それぞれまったく違った表情を持っています。
**《即興曲 第3番 Op.51》**の、流麗で洗練された美しさ。
**《タランテラ Op.43》**の、息つく暇もないほどの疾走感。
**《ポロネーズ 第5番 Op.44》**の、暗く重厚で壮大な世界。
どれもショパンらしいピアノの美しさを持ちながら、《幻想即興曲》や《英雄ポロネーズ》などの代表作とは違った魅力を聴かせてくれます。
有名な作品からショパンを好きになったなら、そこで終わってしまうのは少しもったいない。
ワルツ、ノクターン、エチュード、マズルカ、ポロネーズ――そして、そのどれにも収まりきらない個性的な作品まで。
少し奥へ進むだけで、まだ知らなかったショパンが待っています。
有名曲の、その先へ。
今回の3曲から、あなたの新しいお気に入りを見つけてみてください。